こんにちは。「学校蔵」の学級委員長の尾畑留美子です。
「学校蔵の特別授業」は2014年にスタートし、毎年6月に佐渡の学校蔵を舞台に開催してきたワークショップです。学校蔵とは、「日本で一番夕日がきれいな小学校」と謳われた旧西三川小学校。136年の歴史を持ちながら少子化のため2010年に廃校になり、同じ町内にある「真野鶴」醸造元尾畑酒造によって2014年に酒造りの場として再生されました。ここで毎年6月、一日限りの白熱授業として開催されているのが「学校蔵の特別授業」です。多様性に富み“日本の縮図”と言われる佐渡島は、同時に日本の課題先進地でもあります。その佐渡島から、大きな島国ニッポンの未来を考えてみようと考えたのがはじまりです。
毎年多くの方にご参加頂いてきましたが、2020年はコロナの状況によりリアル開催は難しいと判断し、中止とさせて頂きました。「学校蔵の特別授業」には多世代・多様なバックグラウンドを持つ参加者で溢れ、毎年輝く笑顔とともにたくさんの化学反応が生まれます。このライブ感はリアルじゃないと難しい。それが中止に至った理由です。2021年の開催についても同様に悩みました。ですが、多くの方から開催を希望する声を頂き、「この授業はみんなのもの」でもあると気付き、オンラインで開催することに致しました。はじめてのオンライン開催は佐渡・東京・アメリカをつないで、”ドコにも行けない時代にココから創る未来”を考えていきます。
2021年のテーマは、『佐渡島から考える、ココから創る未来』です。コロナ禍、人の移動や交流が制限されてきました。世界は一変し多くの産業が苦境に立たされています。その一方で、人の流れ、働き方、価値観の変化が起き、それと共に“モノの見方”が大きく変わりました。ドコにも行けない時代だけれど、「ココから出来ること」はいっぱいある。そして一見小さな取り組みに見えることでも、それが束になり、積み重なることによって大きな変化が生まれます。私たちが今できる小さなことが、着実に未来につながっているのです。2021年の特別授業は離島である佐渡から、“ココから創る未来”を表テーマに、そして“ココにいるから見えたこと”を裏テーマに忍ばせつつ、皆さんと一緒に考えていきました。
下記に、毎年「学校蔵の特別授業」を支えてくれる助っ人、玉木由紀子さんのレポートをご紹介致します。ご一読頂き、「学校蔵の特別授業」の見逃し配信をご覧頂けましたら幸いです。
尾畑留美子
「学校蔵の特別授業2021」
現場レポート by 玉木由紀子(学校蔵雑芸員)
1~4限目 ぎっしりずっしり 笑って、考えた・・・
6月26日 晴れ。海はおだやか。おひさまの光に凪の海は鏡のようです。
学校蔵の特別授業、今年はオンラインでの開催ですが、雑芸員・たまき、現地でメモ取り係の役目を拝命し、佐渡・西三川へ。
こんなことはめったに無いので、島内路線バスで、両津から佐和田経由、西三川まで。
船やバス、今回は列車はあいにく利用できませんが、乗り合いで移動すること、から少し縁遠くなっての1年4か月ほど。
久々の佐渡・両津港のおいしいコーヒー屋さんは、すっかり広くさらに素敵な空間になっていました。路線バスの案内やマップも、おぉっと、こんなのがあるんだなぁと、ちょっと嬉しく。窓から外の景色をきょろきょろしたり、乗り合わせる方々の何気ないしぐさや会話から、拡がる世界が垣間見えたり。病院前のバス停は、病院のロータリーをぐるっと回って建物入口まで。バス停の名前をたどると、まちの様子がわかって興味深く。車内のバス停名のアナウンスは英語が続いて、ここ数年での変化を改めて。
屋根瓦の美しい佐渡の家並みに、島は北前船でつながる開口部であったことを想ったり。黒くつややかな瓦に、今はちょうど木々の緑と紫陽花の花がよく似合います。
路線バスの旅、約1時間。
旧西三川小学校・学校蔵に到着です。
授業前のお弁当は、レストランこさど・伊藤薫シェフの特製ランチボックス(^-^)
佐渡の食材に野の葉やぐみの実… 感動です。
そして、授業は、学校蔵一年生のモロミ君の挨拶からスタートしました。
◆1限目:「ブラモタニ佐渡報告会」/講師:藻谷浩介さん
オンラインでの開催、教室の皆で、ぐーちょきぱーはできないけれど、参加者への質問からスタート。
相川京町界隈を歩いた藻谷さん。世界遺産登録を目指す「佐渡金銀山」の普遍的価値としてアピールしているのは、海外との技術交流が鎖国によって限られるなか、世界に誇る質・量の金を生産した伝統的手工業として大規模かつ長期に継続した産業遺産だということ。支配階級層が主導した欧州地域の鉱山由来の文化とは異なる様相が今の佐渡にも通奏低音のように流れていて… このまちなみのなかに、ココで生活をしていこう、と移住した、戻ってきた若い人たちがつくった小さな映画館や食事やお茶をいただく場所など、歩いて、みて、きいて、話すことで、よりくっきりとしてくる、土地もつ力とその土地のかたちに添うようにして、続いている文化、ひとびとの暮らし。
てのひらのような形のこの島の、地形、地質、風土。藻谷さんらしい、総括的直感と熱意、オンラインでもがんがんと伝わってくる… ぎゅぎゅっといっぱい、いろんなヒントがつまっている1限目です。
◆2限目:「What do you think about Japan?」/講師:原秀樹さん
今回初めて佐渡を訪れた原さん、藻谷さんと島を歩かれての印象は、なつかしさと目新しさと双方相まみえる島だと。特別授業に先立ち、佐渡高校、羽茂高校の生徒と、カリフォルニアの高校生、そして原さんをオンラインでつないだ交流会を実施。その様子の一部を使いながら、いずれの高校生たちも、自分自身で考え話している、その確かさ、強さ、しなやかさが紹介されます。
続けて、世界の若者に聞いた各々の国の印象についてのこと。海外からみえている日本は、Fosters creativity. Open and
welcoming. A force for good. 他者が捉える自国に驚きつつ、もう一つ紹介された調査結果「Gen Z in the Classroom:
Creating the
Future」は、これからのことへの大人世代の責任を考えさせられるもの。自らを「創造的」と回答した日本の生徒はわずか8%。グローバルの同世代平均は44%。他国から見える日本と、自分たちがみている自国と…。
原さんはジブンとニホンのつなぎかた、への示唆を3つ。タイワしながら考える。ジブンの言葉で表現してみる。そして、もう一つの示唆は、Negative
capability、不確実さや不思議さ、懐疑のなかにいることができる能力。考え続ける、ということ。「大人になる」というのが「いつも誰かに文句を言っている」のと同義になってしまったように思えるこの国で、自分に自信を持つことって何だろう… 少しゆっくりと答えを焦らずに、ゆるやかな滞留の時間を私たちはもう少し大切にできるようになっていい。そんな2限目です。
◆3限目:「リアルとバーチャル」/玄田有史さん
キーワードとなる言葉の断片が次々に投げられてくる玄田先生の授業は今回、オンライン。大学の授業もオンラインが続くなか、大学のレゾンデートルって?と、藻谷さんからの直球に、「圧が低くて良い」っていうんだよね、との切り返し。リモートの方が質問が多い、この画面以上に大きくならないしね、と。2限目の創造的についての自己評価のお話とも重なっていき、そしてそこから、ヴィクトール・フランクの「夜と霧」のお話へ。「『早く』って言わないこと」が重要と。希望ってきっと、結果ではなく、トンネルの先に見える光ではなく、そこに向かっていく線路。向かっていくプロセスのことで、とぼとぼと、でも前に進んでいく行為のことではないか、そして、Muddling
throughでいいのではないかと。
今回のテーマにある「ココ」についてを、桜木紫乃さんの「置かれた場所で咲きなさいより、咲ける場所へ逃げなさい」を引用しつつ、ココから創るの“ココ”、ってどこだろうか。たどり着いたらココ、のときもあるし、ココで頑張れるもあるんだ、と。理由の分からないこと、知らないということ、に対するNegative
capabilityがないことがおかしいのではないか。そして、「水木しげるの妖怪が住めなくなったら人間が住めるわけがないよね」。いないもの、として外してしまうことの危うさについて、想い至る3限目です。
◆4時限目:生徒総会「ココにいるから見えたこと」
参加者からの質問や感想、意見が交わされた4限目、藻谷さんはこう締めくくりました。自分なりに何ができるか考える。できないことが増え、止まっているのだとしたら、その場所で、できそうなことを。ココからやれることを探してやっていくということ。
初回から参加させていただいている者として、今回の感想、まとめです (#^.^#)
コロナ禍が続き、私たちに図らずも与えられた稀な時間がある今だからこそ、自分の中で解決のつかない課題に対して辛抱強く考える能力を持つこと、そして、他者や理解できないことに共感し、寛容になる心を持つことはどうだろうか。ココから考えてみてはどうだろうか… ココは場、空間でもあり、時間でもある。
3人のお話から、みんなに直球が投げられたのだと感じた、今年の学校蔵の特別授業でした。
余談ですが、子供を産んで親のありがたみがわかったし、親のインチキもわかった」(桜木紫乃)も、個人的に加えさせていただきます。
文責:雑芸員・たまき ゆきこ
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