NHK新潟ラジオ「朝の随想」より

第10回  新潟県醸造試験場


 日本一の酒処、と聞かれれば、多くの日本人が「新潟」と答えることと思います。地酒王国として、ゆるぎない品質を誇る新潟の酒は、他の県の酒造業界からも注目を置かれるほど、長きに渡って消費者の方に愛されています。


 「酒」にとっての三大要素、というと、水・米・人とよく言われます。しかし、新潟の酒の場合、他の県にはない、特別な存在を抜きには語れません。それは昭和五年に新潟市内に設立された新潟県醸造試験場です。


 さて、この試験場の役割は大きく三つあります。一つ目は、「酒の品質向上の研究」です。今でこそ、新潟の水は酒造りに適しているといわれていますが、当時はこの「軟水」は歓迎されていませんでした。そこで、新潟の気候風土や水質に合った技術が研究されてきました。


 二つ目は、「米の調査研究」です。昭和初期の新潟県は全国一の米の生産県であったにも拘らず、酒造りに向いている米がありませんでした。そのため、吟醸酒用に他の県から高い酒米を買っていたそうです。これを打破するために、長い時間をかけて開発された酒米が、現在の「五百万石」で、今では兵庫県の「山田錦」と並ぶ全国的な二大酒米のひとつとして知られるようになったのです。


 そして三つ目が、蔵人の育成です。ライバルである広島、南部に負けない優秀な杜氏を養成するために、一九八四年には日本初の清酒学校立ち上げに中心的役割を果たし、現在に至るまで多くの優れた越後杜氏を輩出しています。
 

 この三つの使命を柱に、新潟県醸造試験場は七十年以上にわたり、県内の酒業界とともに歩み続け、また平成元年からは新しい酒米「越淡麗」の開発に向けて取り組んできました。その「オール新潟」の夢を担った「越淡麗」が、この春、「酒の陣」でお披露目になったのも記憶に新しいところです。
 

 さらに今年は、日本国内に留まらず、海外においても大役を任じられています。毎年一回、アメリカで開催されている、全米日本酒歓評会の審査員として、場長が任命されたのです。日米から合計十名のみという審査員の一人に、新潟県の醸造試験場の場長が選ばれたという事実は素晴らしい栄誉です。きっと、この国際的な舞台での貴重な経験を、次なる使命に存分に生かして下さることと期待しています。
 

 全国で唯一の、清酒専門の調査研究機関、それが新潟が誇る「新潟県醸造試験場」です。
今や地酒王国として全国はもちろん、世界的にも知られるようになった新潟。その影には試験場の大いなる力があったことは間違いありません。そして今後の新潟清酒のさらなる発展にも欠かせない存在です。
 

2005・6・8 NHKラジオ「朝の随想」
真野鶴醸造元・尾畑酒造株式会社
尾畑留美子